技術の用途開発におけるエフェクチュエーションの活用仮説

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概要

今回は、技術の用途開発(新規ユースケースやアプリケーションの探索)にエフェクチュエーション(effectuation)の思考法を適用できないかという仮説を立て、現在その有効性を検討しています。ただし、エフェクチュエーションは主として起業家の行動原理として提唱されてきた経緯があり、技術開発の文脈で適用する場合には一定のカスタマイズが必要だと感じています。以下に、現時点で考えているカスタマイズの要点を示しますが、今後の検証・改良で変化する可能性があります。

1. Bird in Hand(手中の鳥)の原則のカスタマイズ

基本的仮説

自分たちが既に保有しているリソースやネットワークを起点とする、という原則は技術開発にも有用だと考えています。その一方で、技術的アセットの可視化とユーザー視点の導入を強化しなければならないのではないか、という問題意識があります。

具体的なポイント
  1. 技術的アセットの棚卸し
    ・特許やノウハウなど、研究部門に埋もれているリソースを整理。
    ・他部門(特に営業・マーケティング)との協働を見据えたデータ収集の仕組みが必要。
  2. ユーザー・市場視点との接合
    ・エンドユーザーを意識した「用途イメージ」を、開発の初期段階から取り込む。
    ・営業担当やユーザー企業へのヒアリングを通じて、潜在的課題やニーズを洗い出す。
  3. 小さく始める(スモールスタート)の徹底
    ・大規模投資に踏み切る前に、PoC(概念実証)やプロトタイプを作り、短期サイクルの評価を行う。
    ・失敗の早期発見と課題抽出を優先。

2. Affordable Loss(許容可能な損失)の原則のカスタマイズ

基本的仮説

大きな利益を狙うよりも、まず「どこまでなら許容して投資できるか」を明確にしながら段階的に進める方が、技術用途開発の不確実性に適合すると考えています。

具体的なポイント
  1. 段階的投資と評価ゲートの設計
    ・リソース(資金・人員・期間)をフェーズごとに区切り、各段階での達成指標を設定。
    ・技術的実現性と市場評価を評価ゲートで同時にチェックできるプロセスを検討中。
  2. 小規模な実証実験の積み重ね技術
    ・要素を一気に統合せずに、要所要所でサブシステムやモジュールの評価を繰り返す。
    ・クラウドやオープンソースなどを活用し、大きなハードウェア投資は後ろ倒しにする。
  3. 複数シナリオ・複数市場セグメントの並行検証
    ・1つの用途に深く依存するリスクを軽減するため、複数の用途仮説を小規模に試す。
    ・戦略的に並行化することで、成功確率を高める余地があると考えている。

3. Crazy Quilt(継ぎはぎのキルト)の原則のカスタマイズ

基本的仮説

多様なステークホルダーとの協働が技術用途開発には不可欠ですが、伝統的な「縦の協力関係」ではなく、水平的な共創関係が望ましいと見ています。

具体的なポイント
  1. 外部連携の重要性
    ・大学、スタートアップ、異業種企業など、目的に応じた連携先を複数確保。
    ・共同開発においてはリスクとリターンをどう共有するかという制度設計がカギ。
  2. 共同開発・共創プロジェクトの設計
    ・契約形態や役割分担を早期に明確化し、試作品の共同評価などをスピーディに回す。
    ・アジャイル的なアプローチを導入することで、要件定義とプロトタイプ開発の往復を短期化する。
  3. モチベーション設計の検討
    ・「顧客 vs サプライヤー」ではなく、「未来の用途を共に創るパートナー」として巻き込む。
    ・成果の分配や権利関係をどう設定すればWin-Winを維持できるか、実証の余地あり。

4. Lemonade(レモネードを作る)の原則のカスタマイズ

基本的仮説

技術の用途開発では、想定外の使われ方が出てくることが往々にしてあるため、それらを積極的に受け入れ、新しい発想につなげる仕組みが必要だと感じています。

具体的なポイント
  1. 継続的なフィードバックループ
    ・早期段階からPoCやユーザーテストを実施し、意見や課題を定期的に吸い上げる。
    ・想定外の機能要望が出たときに、すぐに検討できるようプロセスを柔軟にデザイン。
  2. 用途の転用や拡張を奨励するアーキテクチャ
    ・開発環境やドキュメント整備を通じて、独自改変や機能追加がしやすい構造を提供。
    ・不具合報告やクレームも「新規アイデアの源泉」として取り扱う。
  3. 問題点の逆手利用
    ・バグや障害などが起きた際、それをなぜ起きたかだけでなく「どのような潜在的価値が生まれるのか」を検討。
    ・失敗事例をシェアし、それを基点に新しい発想を誘発するワークショップなどを計画中。

5. Pilot in the Plane(パイロットは自分)の原則のカスタマイズ

基本的仮説

研究開発においては「未来を予測する」というより、「自分たちが望む未来をどのように創造するか」という視点が重要であり、それを支えるためのチーム体制とビジョンの共有が鍵になると考えています。

具体的なポイント
  1. 技術ビジョンと社会ビジョンの統合
    ・自分たちの技術開発が社会に与えるインパクトを意識し、研究目的を単なる機能開発にとどめない。
    ・社会ニーズとの紐付けが弱いと、用途開発につながりにくいという懸念がある。
  2. 仮説検証と柔軟なピボット
    ・長期的な目標を設定しつつも、そこに至るルートは固定しない。
    ・適宜ピボットを繰り返せるよう、組織文化や意思決定権限のあり方を検討する必要がある。
  3. 制御可能な部分への集中
    ・予測不能な外部要因は多いが、少なくとも内部でコントロール可能な範囲(リソース配分や開発スケジュールなど)を最適化する努力を重視。
    ・組織内で明確に把握できる領域を基盤として、徐々に外部要因にも対応する。

まとめと今後の展望

現在の仮説では、エフェクチュエーションの5原則を技術用途開発の文脈に合わせて再解釈することで、不確実性の高い研究開発プロジェクトにも柔軟に対応できると考えています。ただし、実際には研究開発の性質上、長期間かつ大規模な投資が要求されるケースも多く、起業家向けに提唱されたオリジナルのエフェクチュエーションとは異なる工夫も必要です。

今後は実際の事例(企業内R&D、スタートアップとの協働、大学との産学連携など)を対象に、上記の仮説モデルを適用してその有効性や限界を検証していく予定です。特に各原則のどの要素がどの場面で効果的に働くのかをより定量的・定性的に評価しながら、さらなる改良を加えられればと考えています。

以上は、まだ研究段階の考察であり、今後の検証結果によって大きく方向が変わる可能性もあります。あくまで試行錯誤のプロセスを共有する意図でまとめたものとして、ご覧いただければ幸いです。

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