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古代という魔物と闘い続けたステヴァン・ペーボ氏の冒険記

ネアンデルタール人は私たちと交配した

  • 著者:スヴァンテ ペーボ
  • 翻訳: 野中 香方子
  • 発売日:2015-06-27

レビュー

著者であるベーポ氏は4万年前のネアンデルタール人のDNAやゲノムを解明した研究者である。

ネアンデルタール人は20万年前に我々と分岐し、2万数年前に絶滅したヒト属の一種である。ホモ・サピエンスと同じ祖先を持つが全く異なる種であるネアンデルタール人が私たちと交配していたというのは実に驚きである。しかし、本書の魅力はそこではない。

本書は古代という魔物と闘い続けた1人の男、ステヴァン・ペーボ氏の冒険記である。

「人が人である要因は何か」これがペーボ氏の研究テーマであり、人類進化史の一大テーマでもある。

過去、類人猿や古代の人類の骨格、歯、生活習慣について数多くの研究がなされてきた。高度な知能を有すること、言葉を話せること、手先が器用なことなどが人類特有のものであるとわかっている。しかし、何がきっかけとなり、いつ何を獲得したかについては未だ謎のままである。

その謎にDNA解析という新しい方法で挑戦したのがペーボ氏である。
DNAを調べることで、他の生物とどれくらい違うのか、共通の祖先を持つ生物はどれか、ある生物といつ分岐したのかなどさまざまな進化情報がわかる。さらに、分岐した別の生物とDNAを比較することで、分岐のきっかけとなった遺伝情報を知ることができる。

つまり、ネアンデルタール人のDNAを解読することで「人が人である要因は何か」がわかるかもしれないのである。

しかし、話はそううまくはいかない。DNAこそが最大の魔物だったのである。DNA解析には2つの大きな問題があったのだ。

1つは、DNAは非常に不安定で体内で修復しなければ1時間も同じ配列を保っていられないということである。死後はその修復活動が停止するため、時間が経てば経つほど元の配列を調べるのは難しくなる。4万年前の化石からDNAを抽出することがいかに難しいかは容易に想像できる。

もう一つは別のDNAの混入である。バクテリアや人の細胞が混入するとDNAを複製する際にどの生物のDNAかわからなくなってしまう。ネアンデルタール人と現代人を比較したいのにもかかわらず、現代人と現代人を比較している可能性がでてくるのだ。化石を採掘する際に、素手で触れただけでも汚染は起きるし、埃の混入だけでもだめだという。なぜなら、人が生活している空間の埃の大半は人間の皮膚組織だからだ。

わかりやすく言うと、化石のDNAを解析することは絶望的に難しいということである。

このような問題を解決するためにベーポ氏は限りない努力をしてゆく。その妥協なき姿こそ本書最大の魅力である。
時にはそこまでやらねばならないのか?と疑問がでるほどの完璧さを追求している。だからこそ、4万年前のネアンデルタール人のDNAを解析できたのである。今後さらに解析を進めることで人を人たらしめた要因もわかってくるであろう。

本書は一流の研究者の妥協を許さない姿勢に触れられる最高のサイエンス書籍である。